ゴスペルの発声や歌い方は他と何が違うのか
ゴスペルといえば多くの人が思い浮かべるのが、黒人シンガーの力強くて厚みのある地声でパワフルにソウルフルに歌う姿ではないでしょうか?その上刻むステップはダンサーそのもの!
あんな風にカッコよく歌いたい!と多くの方が一度は思うはず!
私も思います^^
でも、自分とはあまりに違いすぎて、その道のりは遥か遠くに見える。。
少しでもそこに近くために今の自分になにができるでしょう?
まず、ゴスペル一般的な洋楽やJ-POP、はたまた合唱などとは何が違うのか、、という視点から紐解いていきます。
ゴスペルの発声が特別違うわけではないけれど。。
ゴスペルに限らずですけれど基本的には歌の発声はどのジャンルでも同じです。
土台には整えられた楽器である身体があり、安定した呼吸が送り込まれバランスのよい声帯振動があり、豊かな共鳴が起こり声となる。。
これにはジャンルは関係ありません。
ただ、もちろん、ゴスペルや黒人音楽の特徴というものはあります。
ゴスペルの歴史から見る特徴
ゴスペルはどうやって生まれたかご存知ですか?
詳しくは下記の記事で述べていますが、17〜19世紀にアフリカから奴隷制度によって、アメリカ大陸に連れてこられた人たちから生まれたものです。
ゴスペルを歌うからには知っておきたい背景です。
アフリカの音楽は非常に豊かな、そして多種多様で複雑なリズムで溢れており、
ゴスペルにはもちろんのこと、その他多くのジャンルの音楽に、アフリカ的な要素はたっぷり入っています。
(J-POPもソウルやR&Bの影響を多々受けている造られている曲は多いです。となると、少なからずアフリカ的な影響があると言えるでしょう。)
ゴスペルはとてもリズミカルでそのリズムに合わせた音のうねり、いわゆるグルーヴが深く流れています。
歌はそのうねりにのっかりたい。
平坦で頭で拍子を打つことがDNAに叩き込まれている日本人には、最初はとっつきにくいかもしれません。
「ゴスペルの地声での歌い方がわからない」クラシック出身者から見る違い
ゴスペルクワイヤーに入っているけれど、元合唱部、またクラシック経験がある方が、「ゴスペルのような地声の発声がわからない」と、時々当教室のカウンセリングにいらっしゃいます。
合唱やクラッシックは、裏声、ファルセット系で歌うのが基本。
もちろん芯があるしっかりした裏声ですがゴスペルのような力強い地声的な声とは言えません。
地声というのは声帯がしっかり閉じてそれなりの厚みを持って振動します。
もっと厳密にいうと高くなっても地声でしっかりした声が出る時は、声帯の左右のひだのぶつかり合う長さが変わり、高いかつ力強い地声のような声が出るようになります。
合唱やクラシック経験が長い人は、声帯がしっかり閉鎖する感覚を「喉を使いすぎる悪い出し方」のように、感じ取るこり、声帯をしっかり閉じることが苦手な方が多いんです。
実際、当教室に「地声が出したい」と音大出身の女性が来たことがあります。
いくつかの地声発声トレーニングをすると
「こういう発声は悪いと思っていました!!」
と驚いていました。
でも本人は負担を感じることはなく、「こういう声出したかった!」と。
このような方々は、、まず声帯をきちっと閉じる発声ができるようになることが大切なのですが、それをせず、「なんとしてでもとにかく地声を!」と身体を力ませたり、息を強くぶつけたりして喉を痛めてしまうこともあるので気を付けてください。
ではゴスペルは地声で歌うのか?!
では、ゴスペルの特徴とは「地声でしっかり歌うことか」といえば、実はそうとも言えないんです。
まずみなさん、
一つ大きな勘違いをしています。
歌の中において、地声だ裏声だ、なんてものは実は無いと言っていいに等しいのです。
多くの方がゴスペルや黒人音楽を「パワフルで声量があってかっこいい!」と思うのは、
「パワフルな地声」のように聞こえても、実は地声も裏声も超越した、グラデーションある声のためなんです。
これはゴスペルに限らず、どんなジャンルを歌うにしてもとても大切な視点ですが、ゴスペルにおいては非常に重要な歌い方であると考えています。
この辺りのことはこちらでしっかりお伝えしています。
ゴスペルの歌い方の特徴
多くの人が勘違いしているのは、地声と裏声が本当に表裏一体、裏表の関係だと思っていること。
でも違う。声はグラデーションそのもの。
レッスンでは「真ん中の声」、などと呼んだりしていますが、一般的にはミックスボイス などと言われる声です。
でも決して裏声・ミックス・地声 と三種類な訳ではありません。完全なグラデーションなのです。
ゴスペルはもちろん、ソウルやロックなどの発声においても、
「しっかり地声を出しましょう」
「チェストボイスで歌いましょう」
的に教えているサイトや書籍、youtubeなどもあるかもしれません。
でも、それって本当にナンセンス。
私がなぜそうはっきりと、「歌の中で裏声・地声、なんてない」と言えるか、といえば、実際そうだから。
ゴスペルシンガーや、多くの黒人音楽の歌手たちは、それを多彩に使い分けています。
ゴスペルソロから学ぶ声のグラデーション
ゴスペルがシンガーのキャリアの背景にあるこの歌手の声を聞けば、声がグラデーション、ということをよりわかっていただけるかと思います。
Whitney Houston 〜 I Love The Lord〜 ホイットニー・ヒューストン
声の音色の宝庫といえばこのお方 Whitney Houston
このかたは比較的地声っぽく歌ってる気もしますよね。
でも実は地声のようなところも、すこし柔らかめの声で歌っています。全体を通してそんなテンション感です。
声の音色が豊かでそのグラデーションには淀みがありません。
Aretha Franklin – Ain’t No Way アレサ・フランクリン
言わずと知れたソウルの女王、アレサフランクリン。
先日自伝的映画をジェニファー・ハドソンがやっていて号泣しました。
音色の種類が凄まじいですよね。そして声のグラデーションが豊かだからこそ、あそこまでの高音をスムースに出して別の世界を繰り広げている・・・
天使にラブソングを 〜Joyful Joyful〜
日本のゴスペル人気に拍車をかけたSister Act2。
日本でゴスペルを歌う人で、この曲を知らない方はおそらくいないでしょう。
この冒頭のローリン・ヒルのソロ。まさに声のグラデーションが自由自在。
どこが地声でどこから裏声かなんてわかりませんよね。
しかも低い方の音程を歌うからと言って、必ずしも地声っぽい訳では無い。
低い方の音域でも裏声っぽく出すところもあるのです。
また、この部分はバラードではありますが、
細かい歌い回しやアクセント、フェイク、
と言った音の波はしっかり16ビートの中にあります。
これが8ビート、4ビートで区切られると途端にカッコ悪いんですね。
バラードだからって平坦ではなく、非常にグルーヴィーです。
余談ですが、この曲Joyful Joyfulや
もう一つの挿入歌 Oh Happy Dayは、
初心者のゴスペル曲として扱われますが、
実はどちらもめちゃくちゃ難しい〜。
ピッチキープやリズムやグルーヴを出すのが本当に大変な曲です。
ゴスペルのソロにも活かせる発声&リズムトレーニング
1, に関して言えば、言い換えてみるとずっと地声で出そうと思うことがエラーを引き起こすんです。
声帯を長く伸ばして高い声を出すためには、グラデーションな出し方をして、負担のかけないしっかりした声につなげていくことが大事なんです。
ファルセットトレーニング
「地声」「裏声」なんて無いって言ったのに、早速裏声トレーニングかよw
というツッコミもあるかもしれませんが、歌の中で「裏声」「地声」と定義するのが本当は困難なのはお伝えした通り。
しかし、発声のトレーニングにおいてはあえて意図的に「地声」「裏声」と出していくことは必要です。
ちなみに、レッスンでは裏表感をだしたくないので、なるべく「ファルセット」と呼んでます。
(音声生理学の点からは裏声もファルセットも別物、とみなされるようですが)
なぜなら、ファルセットを美しく、でもしっかりと安定して出すということは発声の基本であるブレない呼吸がないとできない、超重要な項目だから。
ファルセット練習はスーパートレーニング。
グラデーション豊かな声のためには欠かせません。
もちろんこれはさまざまなジャンルの歌に有効なもの。
ロックだってソウルだって、J-POPだって同様です。
(1)ファルセットでロングトーン
(2)オクターブで地声↔︎ファルセット
(3)真ん中の声「ニャニャニャ」トレーニング
こちらの記事もご参考に。
(3)のトレーニングについて文面でも詳しく説明しています。
地声のトレーニング
合わせて忘れてはいけないのは地声のトレーニングです。
このファルセットのトレーニングとはぜひセットでおこなってください。
これは、出しやすいキーでファルセットトレーニングと同様の内容を行えばよいでしょう。
ゴスペル系の曲のリズムトレーニング(1)ドラムの音を聴く
ゴスペルのもう一つの特徴、リズムをどう感じるか、のトレーニングです。
ゴスペルの醍醐味はもちろん、ハーモニー。
三声に分かれて織りなす美しい旋律ですよね。それを自分でも奏でたくて、ゴスペルを歌い始める人が多いと思います。
曲を聴くときも「歌」に注目することが多いかと思いますがそれが要注意です。
ゴスペルに限らずともそうなのですが、歌を歌いたい人は曲のなかでとにかく『歌しか聴かない』傾向にあります。
さきほど上述したように、「天使にラブソングを」の曲が難しいのは、このようなグルーヴをなかなか歌で現せないから。
それを表現するためには、演奏の音、とくにドラムの音をしっかり聴くことです。
バスドラ(一番低音の大きな音)はどんなビートか、
スネアは(小太鼓のような太鼓)はどう叩かれているか、
そして大事なのはハイハット(上下のシンバル)。
ハイハットはどんなリズムを刻んでるか。。。
などを、しっかり聞いてくださいね。
これを聞いて、その曲の根底に流れている
曲の波、ノリを感じてください。
日本人だからそのノリはわからないよー
そう言いたい人、いるかもしれません。私もそう思っておりました。歌を始めた頃はリズムが大の苦手でした。
でも何をトレーニングすれば良いかを知り、トレーニングを重ねることで格段に歌のリズムが良くなりました。諦めないことが肝心!
こちらの記事もご参考に。より細かいトレーニング方法をお伝えしています。
ゴスペル系の曲のリズムトレーニング(2)英語の子音と母音を強化
リズムにおいてもう一つ大事なのが実は英語の発音。
子音とリズムの関係
リズムの点をクッキリと表せるのが子音。この子音が弱いと、リズムが立ちません。
例えば、スタッカートで速いテンポでの
「ドレミファソファミレド」を
da da da da da da da da da
a a a a a a a a a
どちらが簡単にできると思いますか?
dadadaの方ですよね、「d」という子音があるから音の粒をしっかり捉えて発声しやすい。
だからこそ、子音を際立たせて発声することが大事になってきます。
そして子音はほっぺたや舌や唇といった、発音を構成する構音筋をしっかり使うことで的確に発声できます。
ですので、発声のための筋肉が衰えてしまったり、そのときむりな力で発声しようとすると、子音の音の粒は曖昧になりリズムも立たなくなってしまうんです。
表情筋の働きも実はリズムにとても大切なのです。
母音と音色
一方母音はリズムではなく音色に関係します。
英語にしろ日本語にしろ、押さえておきたいのは歪みのない安定した音色です。
英語の発音を意識しすぎ余計な動きをして、口腔内が狭くなり音色が暗くなることもあるし、
英語の発音がわからず、「æ」の発音記号を伴う単語を日本語的な「ア」で歌ってると英語のノリが出てきません。
日本語にはない音がたくさんあるので、これもトレーニングが必要、構音筋がまたも活躍するので、そこに伴い表情筋もたくさん使います。
できれば発音記号を含めて学びたい。それほど大事なのがこの母音です。
とはいえ、忙しい中ボイトレするのに発音記号までも一つずつ覚えることは難しいかもしれません。
そこまでできなかったとしても、曲をよ〜く聞いてなんども繰り返すと同じ「a」でもさまざまな違いがあるのがわかるはず。
あれ?と思った時だけでも発音記号をチェックしてください。
googleに その単語+発音 と入力するだけで
発音記号ばかりかご丁寧に音声まで無料で提供されます。
今は便利な世の中です。しっかり活用しましょう!
ゴスペルの発声 まとめ
今回お伝えしたことは、ゴスペルを歌う場合に限らない話です。
ゴスペルや、黒人音楽系、洋楽はもちろんJ-POPにも活用できる基本的な発声方法です。
力強くてパワフルな声を出すための発声方法のトレーニングとしてほんの一アプローチ。
まだまだ他のやり方もたくさんあります。
大事なのは今の自分の課題を見極めてそこに即したアプローチをしていくこと。
客観的に自分を見続けることを忘れないでくださいね!
そして何より大事なのは魂から歌うことです。
本来ゴスペルは宗教の賛美の歌。日本人はゴスペルを歌う人もノンクリスチャンということが多いと聞きますが(私もそうです、)せめて魂から声を出したいですよね。
よかったらこちらもご参考に。